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最高裁判所第二小法廷 平成元年(オ)867号 判決 1992年1月24日

上告人

松本喜美子

松本政之

松本美恵

松本規生

松本良

右五名訴訟代理人弁護士

小村建夫

被上告人

株式会社 伸陽

右代表者代表取締役

中村尚秀

右訴訟代理人弁護士

葛城健二

主文

原判決を破棄する。

本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

理由

上告人松本喜美子、同松本政之、同松本美恵、同松本規生の代理人中村紘毅及び上告人松本良の代理人武藤達雄の各上告理由について

一原審が確定した事実関係は、次のとおりである。

1  上告人松本良、亡松本守正(死亡前一審原告)、訴外松本明は兄弟であり、一審判決添付物件目録(一)、(二)、(四)記載の各土地について各自三分の一の持分を有し、同目録(三)記載の土地については、上告人良及び亡守正は各自三〇万一九五分の一二万二八七七の持分を、訴外明は三〇万一九五分の五万四四四一の持分を有していた(以下、同目録(一)ないし(四)記載の各土地を「本件各土地」という。記録によれば、本件各土地は、地続きの一団の土地であり、東西一六メートル余、南北一七メートル余のほぼ長方形の形状をなし、北側が道路に面していることがうかがわれる。)。

2  被上告人は、昭和六一年一〇月八日、訴外明から、本件各土地についての持分を譲り受けた。

3  亡守正は、昭和六二年二月七日死亡し、相続により、同目録(一)、(二)、(四)記載の各土地について、上告人松本喜美子が六分の一、同松本政之、同松本美恵及び同松本規生が各一八分の一の持分を、同目録(三)記載の土地について、上告人喜美子が六〇万三九〇分の一二万二八七七、同政之、同美恵及び同規生が各一八〇万一一七〇分の一二万二八七七の持分を取得した。

4  上告人らは被上告人に対し、本件各土地の分割を求めたが、協議が調わなかった。

二原審は、右事実関係の下において、本件各土地を合筆の上、これを、上告人らと被上告人の持分の面積比により東側と西側に分け、西側201.99平方メートルを上告人らの共有とし、東側77.84平方メートルを被上告人の単独所有とするよう求めた上告人らの本件共有物分割請求について、現物分割は、本件各土地を極度に細分化することになって、これにより著しくその価格を損ずることとなると判断して、民法二五八条二項に基づき本件各土地につき競売を命じ、その売得金を各持分割合に応じて分割すべきものとし、これと同旨の第一審判決を正当として控訴棄却の判決をした。

三しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

多数の共有不動産について、民法二五八条により現物分割をする場合には、これらを一括して分割の対象とすることも許されること、また、共有者が多数である場合には、分割請求者の持分の限度で現物を分割し、その余は他の者の共有として残す方法によることも許されることは、当審の判例(昭和五九年(オ)第八〇五号同六二年四月二二日大法廷判決・民集四一巻三号四〇八頁)の判示するところであり、その趣旨に徴すれば、分割請求をする原告が多数である場合においては、被告の持分の限度で現物を分割し、その余は原告らの共有として残す方法によることも許されると解するのが相当である。

これを本件についてみるに、前示事実関係によれば、本件各土地の現物分割をするについては、本件各土地を一括して分割の対象とし、かつ、被上告人の持分の限度でこれを分割し、その余は上告人らの共有として残す方法によることを妨げる事情はうかがわれず、この方法によるならば、本件各土地を極度に細分化することになるとはいえないから、この理由をもって、現物分割によると著しく本件各土地の価格を損ずることとなるとし、競売による代金分割を命じた原判決には民法二五八条の解釈適用を誤った違法があって、この違法が判決の結論に影響を及ぼすことは明らかであり、ひいて審理不尽の違法があるといわなければならない。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件については、上告人ら主張の方法を含む具体的な現物分割の方法の有無、価格賠償を併用すること(前記当審判例参照)の当否、現物分割を不能ならしめ、又はこれによって著しく本件各土地の価格を損ずるおそれを生ぜしめる事情の有無等について更に審理を尽くさせる必要があるから、これを原審に差し戻すこととする。

よって、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官木崎良平 裁判官藤島昭 裁判官中島敏次郎 裁判官大西勝也)

上告人松本喜美子、同松本政之、同松本美恵、同松本規生の代理人中村紘毅の上告理由

原判決は現物で分割することは本件土地を極度に細分化することになり、これにより著しくその価格を損ずることになる旨、判示する。

しかし上告人ら四名は、親子の関係にあり、これを一体と見做すことが出来る。のみならず、右上告人松本喜美子と控訴人松本良とは、義理の兄妹、上告人松本政之・同美恵・同規生は、右控訴人と、叔父・甥・姪の関係にあり、従来から同じ一つ屋根の下に暮らしてきたものであるから、これらのものも実質的に一体と見做すことが出来る。結局これらのものと、被上告人との間で分割するにすぎないから、実質的には左程細分化することにはならない。

にもかかわらず、控訴人らが求める現物分割による利害得喪に関する証拠調べを全く尽くしていない点において、原審は審理不尽の違法があり、判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は違法であって、破棄されるべきである。

上告人松本良の代理人武藤達雄の上告理由

原判決は現物で分割することは本件土地を極度に細分化することになり、これにより著しくその価値を損ずることになる旨、判示する。

しかし上告人は控訴人松本喜美子と義理の兄・妹、控訴人松本政之、同松本美恵、同松本規生とは叔父・甥・姪の関係にあり、従来から同じ一つ屋根の下に暮らしてきたものであるから、これらの者は実質的に一体とみなすことができる。

結局右これらの者と被上告人との間で分割するに過ぎないから、実質的には細分化することにはならない。

にも拘わらず上告人が求める現物分割による利害得喪に関する証拠調べを全く尽くしていない点で原審は審理不尽の違法があり、判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は違法であって破棄されるべきである。

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